- 第1章:包装紙印刷業の概要
- 第2章:包装紙印刷業とM&Aの背景
- 第3章:包装紙印刷業のM&Aにおける主な目的
- 第4章:包装紙印刷業のM&Aプロセス
- 第5章:包装紙印刷業のM&A成功のポイント
- 第6章:包装紙印刷業における具体的なM&A事例
- 第7章:包装紙印刷業と環境・SDGsへの対応
- 第8章:包装紙印刷業の国際的展望とクロスボーダーM&A
- 第9章:中小企業支援策とM&A
- 第10章:M&Aのリスク管理
- 第11章:包装紙印刷業M&Aの今後の展望
- 第12章:まとめ
第1章:包装紙印刷業の概要
1.1 包装紙印刷業とは
包装紙印刷業とは、食品や日用品、工業製品などのさまざまな商品の包装用紙に対して印刷を行う産業のことを指します。包装紙とひとくちに言っても、紙素材だけでなく、プラスチックフィルムやアルミ箔、複合材などを用いたパッケージが含まれる場合もありますが、ここでは主に紙素材を中心とする「包装紙」の印刷を取り扱う事業について解説いたします。
包装紙は商品を保護し、かつ商品を消費者へ魅力的に見せるための重要な役割を担っています。たとえば、お菓子やスナックなどの食品の包装紙は、鮮やかなデザインやブランドロゴ、製品情報などを印刷することで、消費者の目を引くマーケティング手段となります。また、機能面でも、湿気を防ぐコーティング加工や、破れにくさ・印刷の耐久性など、高度な技術が必要とされる部分もあります。
1.2 業界の構造と特徴
包装紙印刷業界は比較的多数の中小規模企業が参入していることが特徴的です。その一方で、大手企業も存在し、大手は最新の印刷技術や設備を活用することで大量生産を得意とし、中小企業は地域密着型サービスや特注ニーズへの対応といった柔軟性を武器に生き残りを図っている構造があります。また、包装紙印刷は、環境負荷低減という観点からも注目されています。近年ではプラスチック包装から紙ベースの包装にシフトする動きが進んでいるため、包装紙の需要は総じて増加傾向にあります。
さらに、食品や飲料、医薬品などの業界においては衛生面や品質管理の厳格化が求められています。このため、包装紙印刷においてもISO認証取得や安全性・衛生面の確保などにコストを要するケースが増えています。このような背景から、一定規模の設備投資が必要になるため、経営資源や技術を有していない企業にとっては事業を継続するハードルが高まる傾向があります。
1.3 市場規模と成長性
包装紙印刷の市場規模は、包装業界全体の需要に大きく左右されます。世界的に見ると、中国やインドなど新興国での消費者市場拡大や、EC(電子商取引)の普及などによる宅配需要の増大により、包装材の需要は今後も成長が期待されています。日本国内においても、プラスチックから紙素材への転換が注目されることで、紙ベースの包装資材市場が拡大傾向にあります。
一方で、日本国内市場は少子高齢化による消費の縮小という課題も抱えています。しかし、食品や医薬品、化粧品など特定分野での需要は引き続き底堅く、また海外からの観光客増加(近年コロナ禍を経て回復傾向)や輸出産業の動向などに伴い、パッケージの高付加価値化への需要もあります。こうした環境下で、包装紙印刷業は安定した需要が見込めるものの、競合が激しいためコスト競争力や技術・提案力が鍵となります。
第2章:包装紙印刷業とM&Aの背景
2.1 中小企業の後継者問題
包装紙印刷業界は古くからの家業をベースにした中小企業も多く存在しています。ところが、少子高齢化の影響や、子供が家業を継がないケースが増えていることなどから、後継者難に直面している企業が少なくありません。後継者が見つからないまま廃業に至る企業もあり、その結果、市場では技術やノウハウの継承が進まないという課題が浮上しています。
このような状況下で、事業承継を円滑に進める手段としてM&Aが選択される例が増えています。M&Aによって、創業家やオーナー経営者の事業を外部や他の企業へ売却し、事業の継続と雇用の維持を図ることが可能となります。特に、印刷技術や取引先との関係といった無形資産を承継する上でも、M&Aは魅力的な選択肢といえます。
2.2 設備投資と資本の集中
包装紙印刷の分野では、最新の印刷設備や加工設備への投資が品質・生産性向上に直結するため、一定以上の資本力を持つ企業が優位に立ちやすい構造があります。デジタル印刷技術の導入や自動化・省人化設備を導入するためには多額の資本が必要となるうえ、環境負荷低減を目的とした新素材の研究開発や、生産工程の環境対応にも費用がかかります。
そのため、中小規模の事業者が単独で大規模投資を行うことは経営リスクが大きく、財務的に困難なケースも多いです。こうした状況の中で、資本力のある企業とM&Aを行い、投資コストを分散するとともに技術力や顧客基盤を相互活用することで、生産効率や収益性を高める動きが活性化してきています。
2.3 市場競争激化と業界再編
包装紙印刷市場では、従来のオフセット印刷やフレキソ印刷、グラビア印刷などの伝統的手法だけでなく、デジタル印刷の普及に伴う印刷方式の多様化や、海外企業の参入などによる競争激化が見られます。特に大手グローバル企業はスケールメリットを活かして価格競争力を高めることで市場シェアを獲得しようとするため、中小規模企業には厳しい環境となる場合があります。
また、世界的な大手印刷グループが包装分野へ積極的に進出している例もあり、国内企業と資本提携・買収を通じて技術や顧客網を獲得しようとする動きが顕著です。こうした競争環境の変化に対応するために、国内企業同士がM&Aを活用して規模の拡大や技術力の強化を図るケースが増加傾向にあります。
第3章:包装紙印刷業のM&Aにおける主な目的
3.1 後継者不在問題の解決
先述のとおり、オーナー企業で後継者が不在の場合、M&Aは事業承継の最適な手段のひとつとして用いられます。買い手企業にとっては、事業継続だけでなく、熟練した職人技や特殊な印刷技術なども合わせて取得できるメリットがあります。売り手としては、長年培った企業ブランドや雇用を守りつつ、経営者が高齢化する中で早期に出口戦略を実行できる利点があります。
3.2 規模拡大による競争力強化
包装紙印刷業界では、一定規模以上の受注を確保しなければ設備投資の採算性を確保しにくい面があります。そこで、複数の企業が合併・買収を通じて経営統合することで、受注量の拡大や生産ラインの集約が図られ、生産効率や原材料コストの削減が期待できます。さらに大きな企業体になることで、取引先や金融機関に対する信用力が高まり、有利な条件での交渉や融資が受けやすくなるという効果もあります。
3.3 技術力・顧客基盤の強化
M&Aのもうひとつの大きな目的は、技術や顧客基盤の補完・強化です。たとえば、ある企業が持つ高精度の特殊印刷技術や、海外マーケットへの販売ルートなどを活用することで、双方の企業はより幅広いサービスを顧客に提供できるようになります。包装紙の加工技術や新素材への対応、あるいは環境負荷低減技術など、単独で開発するには時間とコストがかかる領域を補完することで、より強力な競争優位を築くことが可能です。
3.4 海外展開・グローバル化
近年では、中国や東南アジアをはじめとするアジア地域において、旺盛な消費需要を背景に包装材の需要が急速に拡大しています。国内企業がこれらの海外市場に参入する際には、現地企業とのパートナーシップが大きな後押しになります。逆に、海外企業が日本国内市場に参入する場合にも、国内企業とのM&Aを通じて既存の顧客基盤や技術を取得し、市場へのスムーズな参入を図る例が増えています。
第4章:包装紙印刷業のM&Aプロセス
ここでは一般的なM&Aのプロセスを包装紙印刷業に落とし込みながら、その特徴や留意点を詳しく解説いたします。
4.1 M&Aの準備段階
4.1.1 自社の価値分析と戦略立案
M&Aを検討する際にまず重要なのは、自社の強みや経営戦略を明確にすることです。たとえば、売り手企業としては、「後継者不在をどう解消するか」「どの事業領域を残して継続したいのか」「企業価値を最大化するための条件は何か」などを整理し、社内外の専門家と共に戦略を立てます。買い手企業の場合は、「どのエリアで事業拡大を目指しているか」「どんな技術や顧客基盤を求めているか」などを明確にし、買収後に期待するシナジー効果を数値化できるよう準備します。
4.1.2 アドバイザー選定とM&Aスキーム検討
M&Aの進行にあたっては、M&Aアドバイザー(仲介会社や投資銀行、コンサルティングファームなど)を活用することが多いです。特に包装紙印刷業に精通しているアドバイザーであれば、業界特有の事情やバリュエーションの際の考慮ポイントなどを理解しており、適切な助言を行えます。また、M&Aのスキーム(株式譲渡・事業譲渡・合併など)も、税務・法務面の最適化を考慮して検討する必要があります。
4.1.3 買い手候補・売り手候補のリストアップ
アドバイザーや金融機関、専門家のネットワークを活用して、買い手・売り手の候補をリストアップします。包装紙印刷業のなかで、地域性や技術分野、設備の相性など、M&A後のシナジーが期待できる先を重点的に探すことが多いです。とくに、製造ラインが重複しない、あるいは地域ごとのカバー領域が重複しないといった観点が重要となります。
4.2 意向表明から基本合意
4.2.1 ノンネームシート (NDA) と初期交渉
M&Aの初期段階では、お互いの企業の情報を明かさない「ノンネームシート」や機密保持契約(NDA)の締結を行い、概要レベルの情報交換を行います。包装紙印刷業の場合、特注のデザインデータや顧客リストなど機密性の高い情報が多いため、情報管理には特に注意が必要です。
4.2.2 デューデリジェンス準備
ある程度の交渉が進み、お互いにM&Aの可能性があると判断したら、買い手企業はデューデリジェンス(DD)の準備に入ります。DDでは、財務や税務、法務、ビジネス面など多角的な角度から対象企業を調査し、潜在的なリスクや問題点を洗い出します。包装紙印刷企業の場合、保有設備の稼働年数やメンテナンス状況、主要取引先との契約条件、環境規制への対応状況など、産業特有のチェックポイントが追加で考慮されます。
4.2.3 基本合意書(LOI)の締結
買い手と売り手双方が大枠の条件に合意した段階で、基本合意書(LOI: Letter of Intent)を締結することが一般的です。譲渡価格の概算や取引スキーム、主要なスケジュール、独占交渉権の有無などが記載されます。ここから先は基本合意のもとで、より詳細なデューデリジェンスや最終契約書の作成、具体的な交渉が進められていきます。
4.3 デューデリジェンス(DD)
4.3.1 財務・税務DD
包装紙印刷企業の財務・税務DDでは、売上構成や利益率、設備投資の履歴、在庫管理などが確認されます。また、紙やインク、フィルムなどの原材料費の推移が企業収益に与える影響や、製造原価の正確さも重要な確認項目です。さらに、税務面では、設備投資に伴う減価償却の処理や、補助金の受給状況などが整理されます。
4.3.2 法務DD
法務DDでは、事業許認可や特許・商標などの知的財産権、雇用契約、取引基本契約などが精査されます。包装紙印刷企業では、デザインに関する著作権や、ブランドロゴの商標権なども重要です。また、環境規制に関する許認可の取得状況や、各種排出基準の遵守が確認されることもあります。
4.3.3 ビジネスDD
ビジネスDDでは、企業のビジネスモデルや技術力、市場競合力などが評価されます。包装紙印刷企業においては、どのような印刷方式をメインとするか、どのセグメント(食品、工業用、化粧品など)に強みを持つか、地域密着型か広域展開型か、といった点が焦点となります。また、主な取引先との契約条件や取引の継続性、設備の老朽化リスクなどが細かく検証されます。
4.4 価格交渉と最終契約
4.4.1 企業価値評価(バリュエーション)
デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的な価格交渉に移ります。この際、包装紙印刷業界特有の設備稼働率や長期的な需要予測、技術的優位性などが考慮され、企業価値評価が行われます。DCF法や比較企業法、時価純資産法など、一般的な評価手法が用いられますが、設備投資サイクルや原材料価格の変動などをどのように織り込むかがポイントとなります。
4.4.2 最終契約書の作成
価格や支払方法、譲渡対象となる資産・負債の範囲、表明保証条項、違約金・補償制度などを定めた最終契約書が作成されます。合併・買収後の経営体制や従業員の処遇、ブランドの取り扱いなどについても明記することが多いです。包装紙印刷業の場合、顧客との契約をどう引き継ぐか、設備のリース契約はどのように扱うかなど、細部にわたる調整が必要になります。
4.5 クロージングとPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)
4.5.1 クロージング
最終契約書に沿って、株式譲渡や資金決済、必要な許認可手続きなどが完了し、正式にM&Aが成立するのがクロージングです。包装紙印刷事業の場合、環境関連の許認可や品質規格(ISOなど)の継承手続きも並行して行われることがあります。
4.5.2 PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)
M&A成立後には、組織統合やシステム統合などのPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が実施されます。印刷工程の標準化や、生産計画の統一、購買の共同化による原材料コスト削減などが具体的な取り組み例です。また、企業文化の融合や従業員のモチベーション管理にも注意が必要で、丁寧なコミュニケーションが欠かせません。
第5章:包装紙印刷業のM&A成功のポイント
5.1 事前の戦略策定と合意形成
M&Aを成功させるためには、売り手・買い手の双方が「なぜM&Aを行うのか」という戦略をしっかり共有し合意形成しておくことが大切です。たとえば、後継者不在問題を解決したい売り手企業と、技術拡充を狙う買い手企業であれば、互いにWin-Winの関係を築くためにどのような条件が必要かを明確化する必要があります。
5.2 バリュエーションの適切な実施
包装紙印刷業特有の設備投資サイクルや、取引先との契約形態の特徴を十分に把握し、これを企業価値評価(バリュエーション)に反映させることが重要です。将来的な市場の伸びや新技術への対応力、設備の陳腐化リスクなども考慮し、妥当な価格を算定します。適切なバリュエーションが行われることで、買い手・売り手の双方が納得できる条件を提示しやすくなります。
5.3 丁寧なデューデリジェンス
デューデリジェンスを疎かにすると、M&A成立後に予期せぬ債務やトラブルが表面化するリスクがあります。包装紙印刷業は設備や原材料、取引先、環境規制への対応など、多角的に見なければならないポイントが多いです。専門家の力を借りながら、財務・税務・法務・ビジネス面を網羅的にチェックすることが、M&A後のスムーズな統合に大きく寄与します。
5.4 PMIの計画と実行
M&Aはクロージングで終了ではなく、その後のPMIこそが成功を左右するといわれます。包装紙印刷事業においては、印刷方式や品質規格が異なる拠点同士の統合、調達先の統一・一元管理、受注管理システムの統合などが、重要な統合タスクになるでしょう。これらを円滑に進めるために、事前にPMI計画を立案しておき、必要なリソースや責任者を明確にしておくことが不可欠です。
5.5 組織文化の融合と人材活用
M&Aでは、組織文化の違いによる摩擦や対立が起こりやすいのも事実です。包装紙印刷業の場合、職人肌の従業員や長年同じ経営者の下で働いてきた社員が多いケースもあり、新たな経営体制への抵抗感が生まれることも珍しくありません。丁寧な説明やコミュニケーション、適切な人材配置と評価制度の整備などにより、組織の統合を円滑に進める努力が求められます。
第6章:包装紙印刷業における具体的なM&A事例
6.1 地域密着型印刷企業同士の合併
ある地方で30年以上続く包装紙印刷企業A社と、隣県で同規模の包装紙印刷を手がけるB社が合併した事例があります。両社とも設備投資の更新が追いつかず、競合他社との価格競争に苦しんでいました。しかし、合併によって生産ラインの集約が進み、一部の設備を売却することで新しいデジタル印刷設備の導入資金を確保することができました。さらに地理的にもお互いのエリアが重ならないため、営業の範囲が拡大し、顧客基盤を相互に共有できたことが成功要因となりました。
6.2 大手印刷グループによる中堅企業買収
国内大手印刷グループC社が、特殊コーティング技術を有する中堅包装紙印刷企業D社を買収したケースもあります。D社は金属調の高級感ある印刷加工技術で高評価を得ていましたが、営業面や資本面の制約から設備拡張ができず、市場シェアを拡大できない状態でした。一方、C社は資本力を背景に設備投資に積極的で、海外市場にもネットワークを持っていました。買収後はD社の技術をグループ全体に展開し、海外企業からの高付加価値製品の受注にも成功しています。
6.3 外資系企業との資本提携
欧州の包装材料メーカーE社が、日本国内で独自の和紙を使った包装紙に強みを持つ印刷企業F社と資本提携をした事例も注目されます。E社は日本市場への本格参入を狙う一方で、和紙など独自文化を感じさせる素材を活用した高付加価値商品に興味を持っていました。F社は国内外の販路を拡大したいものの、自力では海外展開に必要な資本や情報が不足していたため、外資との資本提携を選択しました。結果的に双方が強みを活かし合い、海外市場向けの新製品開発やブランドイメージの高級化につなげることに成功しています。
第7章:包装紙印刷業と環境・SDGsへの対応
7.1 環境対応の重要性
SDGs(持続可能な開発目標)の浸透に伴い、環境配慮型の包装紙がますます求められる時代になりました。企業としては、再生紙の活用や水性インキの使用、VOC(揮発性有機化合物)の低減、製造工程の省エネ化など、環境に配慮した取り組みが求められます。こうした要請に適切に応えられる企業かどうかは、今後のM&Aにおいても評価の重要なポイントとなり得ます。
7.2 M&Aによる環境対応力強化
包装紙印刷業のM&Aでは、新素材や環境技術を持つ企業を買収することで、環境対応力を強化する動きも出てきています。たとえば、バイオマスインキや植物由来のコーティング材を開発している企業と資本提携をすることで、従来の印刷製品との差別化を図り、環境意識の高い顧客ニーズを取り込むことが可能となります。
7.3 ESG投資の拡大と資本調達
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大しており、包装紙印刷企業の中にも、環境への配慮や社会貢献を重視する姿勢をアピールすることで、投資家からの資金調達がしやすくなるケースが増えています。M&Aにおいても、ESGに配慮した企業同士の統合は好意的に受け止められやすく、取引条件が有利になる場合もあります。
第8章:包装紙印刷業の国際的展望とクロスボーダーM&A
8.1 世界市場の動向
グローバルにみると、中国やインド、東南アジア地域などで消費が拡大し、包装材の需要は引き続き伸びています。特にEC市場の成長に伴う包装需要の増大や、食品の衛生管理強化に伴う高機能パッケージの需要が高まっています。これらの成長市場にスムーズに参入する手段として、クロスボーダーM&Aが一つの選択肢となっています。
8.2 クロスボーダーM&Aのメリットと課題
海外企業を買収する場合、現地での販売チャネルや人脈、工場設備などを一括で取得できるメリットがありますが、言語や文化の壁、法規制の差異など課題も多いです。包装紙印刷業の場合、特に環境規制や食品安全規制が国によって大きく異なることがあり、法務・コンプライアンス対応の負荷が高くなります。一方で、海外で先進的な印刷技術やデザインを取り入れることで付加価値を高められる可能性も高いです。
8.3 成功に向けたポイント
クロスボーダーM&Aを成功させるには、現地の法制度やビジネス習慣をよく理解し、信頼できる現地パートナーや専門家を活用することが肝要です。さらに、国内の経営チームだけでは把握しきれない文化面での摩擦を軽減するため、PMIの段階で現地社員とのコミュニケーションや研修プログラムなどを丁寧に行うことが重要になります。
第9章:中小企業支援策とM&A
9.1 公的支援制度の活用
包装紙印刷業の中小企業がM&Aを検討する際、自治体や公的機関の支援制度を活用できる場合があります。事業承継の一環として、中小企業庁や地方自治体が相談窓口を設置していることもあり、専門家による無料相談や補助金・融資制度などを利用することで、M&Aのハードルを下げられます。
9.2 事業承継ファンドの活用
近年、事業承継問題を解決するための「事業承継ファンド」が各地で設立されています。包装紙印刷業の企業も、このようなファンドから投資を受けることで資本増強を図ったり、後継者育成の猶予期間を得たりできます。ファンドが経営支援やネットワークの提供を行い、企業が売り手として次の買い手を探す間に体制を整えるといったスキームも存在します。
9.3 地域金融機関の役割
包装紙印刷業の多くは地方に根ざして事業を行っているため、地域の金融機関がM&A支援において重要な役割を担うことが多いです。地域金融機関は、地元企業とのネットワークを持っており、経営者同士を引き合わせる仲立ちをしたり、M&A成立後の資金繰り支援を行ったりします。地域での雇用や経済活性化という観点からも、金融機関が積極的にサポートする例が増えています。
第10章:M&Aのリスク管理
10.1 価格面のリスク
M&Aでは、企業価値を過大評価して高額で買収してしまうリスクがあります。包装紙印刷業の需要は比較的安定している一方、設備の陳腐化や原材料価格の変動など、不確定要素も少なくありません。過度に高い価格でM&Aを行うと、買収後の収益が計画通りに上がらなかった場合、大きな損失を被る可能性があります。
10.2 組織統合のリスク
PMIでの組織文化の統合が十分に行われないと、従業員の士気低下や離職率の上昇などの問題が発生し、期待していたシナジーを得られません。包装紙印刷業では、熟練職人やデザイナーなど、現場力に依存する部分が大きいため、人材が流出すると企業競争力が急激に落ちるリスクがあります。
10.3 法務リスク
包装紙印刷業は、環境規制や安全基準など、多くの法律規制を受けています。M&A後に過去の違反が発覚したり、許認可の更新が滞っていることが判明したりすると、事業継続に支障をきたすケースもあります。法務リスクを回避するためには、デューデリジェンスでしっかりとチェックし、最終契約書で表明保証を取り付けることが重要です。
10.4 財務リスク
企業買収時に負債を増やしすぎると、財務基盤が脆弱化し、設備投資や新事業開発に必要な資金が確保できなくなることがあります。特に包装紙印刷業界では、設備更新のタイミングが企業競争力に大きく影響します。買収時の資金計画を綿密に立て、適切な財務バランスを保つことが求められます。
第11章:包装紙印刷業M&Aの今後の展望
11.1 国内市場の再編加速
包装紙印刷業は、国内需要が緩やかに推移する一方で、大手企業の寡占化や異業種からの参入などにより、今後も業界再編が進むと予想されます。デジタル印刷や環境対応印刷などで先行する企業が、後継者不在の中小企業を買収して取り込みながら、シェア拡大を狙う動きが続くでしょう。
11.2 海外との連携強化
国内だけでなく、海外企業との資本提携やM&Aも活性化すると考えられます。アジア市場を中心に包装需要が拡大する中で、日本企業が高品質・高技術な印刷サービスを提供しつつ、現地企業のネットワークや生産力を活かして、互いに市場開拓を進める可能性があります。
11.3 DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展
印刷業界全般において、DXの進展が大きなテーマとなっています。包装紙印刷業でも、受注から生産、在庫管理、配送までを一元化するシステムや、AI・IoTを活用した生産効率化など、IT投資が今後ますます重要となるでしょう。M&Aを通じてDXに強い企業や専門人材を取り込むことで、競争優位を獲得する動きも増えていくと考えられます。
11.4 新素材開発・サステナブル包装の需要拡大
環境意識の高まりによって、プラスチック製品から紙製品へのシフトがさらに加速する可能性があります。また、生分解性素材やリサイクル素材など、サステナブルな包装紙の需要が増加することが予想され、それらを印刷・加工する技術を持つ企業が注目されるでしょう。M&Aを通じて新素材分野に強い企業を傘下に収め、独自技術を拡大させるケースが増えるとみられます。
第12章:まとめ
本記事では、包装紙印刷業の概要や市場動向から始まり、M&Aの背景やプロセス、成功要因、リスク管理、そして今後の展望に至るまで、幅広く解説してまいりました。包装紙印刷業は、消費財のマーケティングや商品保護に欠かせない重要な役割を担っており、少子高齢化や環境規制の強化など、さまざまな環境変化の中でも安定需要が見込まれる業界です。
しかし、後継者不在や設備投資負担、競合の激化といった課題も多く、M&Aによって経営資源の集約やノウハウの獲得、規模拡大を図る動きが活発化しています。特に印刷技術の高度化や環境対応力が今後の競争力を左右するため、これらを補完できる相手企業とのM&Aを進めることが重要となるでしょう。
M&Aを成功させるためには、十分な準備と戦略策定、適切な企業価値評価、丁寧なデューデリジェンス、そしてクロージング後のPMIに至るまで、一貫したプロセス管理が求められます。また、組織文化や人材の統合に注力し、従業員のモチベーションを維持・向上させることも不可欠です。さらに、海外展開を目指す企業にとっては、クロスボーダーM&Aを通じて市場アクセスを獲得する動きが今後ますます増えるものと考えられます。
今後も、包装紙印刷業においては業界再編やグローバル化、環境対応、DX化といった大きなトレンドが進み、M&Aはその中核的な手段となり続けるでしょう。中小企業から大手企業まで、多様なプレイヤーが互いの強みを生かし合い、より高付加価値の製品・サービスを消費者に届けるために、M&Aが積極的に活用される時代が訪れています。